No.4 おなかが喜ぶ保存食「発酵野菜」
夏真っ盛り、ファーマーズ・マーケットにもたくさんのお野菜が並んでますね。
旬の栄養があるだけではなく、目にもうるわしい色とりどりのお野菜を楽しむのは、心にも身体にも元気をくれます。
この時期のお野菜は、栄養たっぷりで香りもしっかり。
シンプルに調理するだけで美味しくいただけます。
とはいえ、たくさんのお野菜を楽しむと、使い切りに苦心することはないですか?
あれやこれやと買い込んだものの、少しずつ余ってしまったお野菜を、最後まで楽しむにはどうしたらいいか…。
刻んでスープ、パスタ、炒飯に入れたり、ざっくり炒めて五目炒めにしたり…色んな方法がありますけども、今回ご紹介するのは、身体、特に腸が喜ぶ「ごはん」です。
腸が喜ぶ…というと、その代表格は「善玉菌」とも呼ばれる「乳酸菌」ですね。
この乳酸菌は、大きく分けると「動物性」と「植物性」があります。
「動物性」は、動物性の母体(乳など)で発酵を行うもので、チーズやヨーグルトに含まれています。ヨーグルトを健康のために毎日食べる…と言う方も少なくないでしょう。
でもこの乳酸菌、健康な方の場合は99%が胃酸で死んでしまいます。
これは人間の免疫機能によるもので、外部から入ってきた菌を攻撃することによって起きるものです。
しかしながら、菌の「死体」は、腸に運ばれ、腸に存在する善玉菌の栄養になりますので、決して無駄ではありません。
対して「植物性」の乳酸菌は、植物(野菜など)を母体にして発酵を行うもので、漬物、味噌、日本酒などに存在します。
この「植物性」乳酸菌は、「動物性」に比べて強く、胃酸にも負けずそのまま腸まで届きます。
また、高濃度の塩分にも強いため、漬物や味噌などの環境下でも問題なく発酵できるのです。
そんなピッチピチの乳酸菌をたっぷりととれる野菜ごはんを作ってみましょう。材料はわざわざ買ってこなくとも、家にある「使いさしの野菜」で充分なんです!
半端に残った野菜もこれで使いきれる上、身体にもよい一石二鳥の野菜ごはん、それが「発酵野菜」です。
要は「漬物」なので、白菜漬け、ぬか漬け、ザワークラウトなど、お仲間はたくさん存在しますが、今日は使いさしの野菜で作る「瓶漬け」をご紹介します。
この瓶漬けは、浅漬や無発酵ピクルスのような「漬け汁」を使って作る簡易の漬物ではなく(注1)、野菜自身の水分で発酵させる、ホンモノの「漬物」です。
今回のお料理で使うのは、何はさておき、保存瓶です。
できれば、ゴムパッキンのついたもので、しっかりと密封できる広口のものが好ましいです(注2)。大きさは適当で構いませんが、後で冷蔵庫に入れますので、冷蔵庫に入る程度の大きさにして下さい。
わたしが使ったものは、高さ16センチ、瓶底直径9センチのものです(IKEA製)。
材料はこちら。
冷蔵庫で保存してあった、使いさしの野菜たちです。
野菜はかたいもの(汁気の多くないもの)で、生食できるものなら何でもOKです。
汁気の多いもの、つまり、トマトなどは向いていません。
また、いも類や堅すぎる野菜(ごぼうなど)も向いていません。「スライスしただけでサラダで食べられる野菜」という判断基準でいいかと思います。
果物は、りんごやなしなど、汁気のないかためのものなら使えます。
今回用意したのは、きゅうり、大根、ズッキーニ、人参、玉葱、ハラペーニョ、にんにく、ピーマン。およそ300gくらいです(注3)。
材料
- 使いさしの野菜や果物
<きゅうり、大根、ズッキーニ、人参、玉葱、ハラペーニョ、にんにく、ピーマン、ビーツ、蕪、セロリ、りんご…など> - 塩(ミネラルを含む、海塩などの美味しい塩)・野菜の全体量の5%
道具
- 広口瓶
- 電卓
- 計り
- 大きめのボウル
- 包丁
- まな板
- スライサー
- ラップ
広口瓶はきれいに洗い、しっかりと乾かしておきます。
厳密な消毒は必要ありません(注4)。
まずは、野菜をよく洗い(注5)、好みの厚さにスライスします。
スライサーを使ってもいいですし(ガードを使うなどして、怪我に注意してください!)、包丁で切ってもいいです。
少し歯ごたえを残したいものは、やや厚めに切るといいでしょう。
切った野菜は、計量します。
重量の5%の塩分を加えるため、この計量は必須です。
普段は計りを使わない方も、今回は必ず、きちんと計量してください。
野菜を大きめのボウルに移し、野菜の重量の5%の塩を計算し、野菜全体にふりかけます。
塩が野菜全体に回るよう、手でまぜていきます。
全体に塩が回ったら、そのまま30〜40分、放置します。
30分後、ボウルを傾けるとこのように、野菜から水が出ています。
この水が「漬け汁」になるので、決して捨てないで下さい。
もっと水が出るよう、野菜をもみます。
野菜を壊さないよう、でもしっかりと水を出してもらえるよう、キュッキュッ、ともみます。
もんだあとの野菜はこんな感じ。
しっかりと水が出てますね。
この野菜を、広口瓶に手で詰めていきます。
できるだけすき間がないよう、こぶしを使ってギュッと詰めます。
最後に、野菜から出た水分を注ぎ、野菜の上まで水が来ているのを確認します。
この時点で、野菜からの水が少なく、野菜の上まで水が来ていないようなら、「5%水溶液(水の量=重量に対して5%の塩を溶かしたもの)」を作り、野菜の上まで水が来るようにしてください。
そのままの状態で野菜の上にラップをかぶせ、野菜たち全部が水にひたるようにします(わたしが後でキャベツを追加したので量が増えております…ごめんなさい!)。
そして、瓶のふたを「かぶせるだけで開けたまま(決してふたをしないでください!)」、風通しの良い常温の場所に放置します。
暑すぎる場所、直射日光の当たる場所などは腐敗の原因になりますので、ご注意下さい。
瓶のふたを開けたままにするのは、空気中に自然に存在する菌たちの力を借りるためです。
常温での工程が終わって冷蔵庫での熟成に入ったら、蓋をして保存します。
夏なら3日ほど、冬なら5日ほどで、発酵してきます。
毎日、瓶の中の匂いをかいで、無事に発酵していることを確かめてあげてください。
漬物などでかぐことのできる、ちょっと酸っぱいにおいでしたら問題ありません。
もし、不愉快な匂い(腐敗臭、硫黄臭など)がしたら、その瓶は残念ながら失敗です。コンポストに利用するか、ゴミとしてお別れするなどしましょう(注6)。
こちらは、今回以前にわたしが作った「発酵野菜」です。
ピンクの色は、ビーツから出ています。
実は、ビーツの色は酸によって抽出されるものなので、乳酸菌発酵が上手く行っていると、このように色素が抽出され、全体が赤くなります。
上手く行っているかどうかの目安になるので、初心者のかたは使ってみるのも便利です。ビーツ独特の風味は、思ったほど、味には影響しません。
また、緑の野菜も同様で、乳酸菌発酵が上手く行くと、緑からモスグリーンに変わってきます。ぬか漬けが古漬けになると、そうなりますよね。発酵具合を確かめるのに、これも使えます。
さて、3日後です。
「泡」が出ているのがおわかりいただけますでしょうか?
これ、乳酸菌発酵によるものなのです。
また、きゅうりの緑色がモスグリーンになっていますね。前述のとおり、これは乳酸菌が活発に活動して、発酵が順調に進んでいる証拠です。
こうなったら、常温での過程は終了です。
季節や湿度により、発酵の進み具合は異なりますので、毎日観察して、判断してあげてください。
この「泡」が出る段階になると、においはだいぶ漬物っぽくなっていて、酸味をしっかりと感じられます。
この後は、瓶のふたをしっかり閉じて、冷蔵庫での熟成期間に入ります(注7)。5日〜一週間後から食べられます。
保存は1ヶ月ほどを目安に(注8)。
酸っぱすぎる、匂いが変わった、食感が変わった、などの異変があったら、その時点で食べるのをやめてください。
5%塩分の漬物なので、それなりにしょっぱい漬物です。
そのまま食べて問題ありませんが、しょっぱいと感じたら、他の野菜の薄切りにまぜたり、豆腐に載せたり、炒飯の具材にしたりと、塩分を分散して食べてみてください。
スープなどに漬け汁ごと使っても美味しいですが、この場合、残念ながら煮立てることで乳酸菌は死んでしまいます。
この日のメニューにある、鮮やかなピンクのものが、わたしが以前に作った発酵野菜です(上記でご紹介したものです)。
こんな感じでちょっと添えるだけでも、乳酸菌をしっかりとることができるので、非常に便利です。
毎日の食卓に小鉢にちょっと取って添える、そんな食べ方ができる「常備菜」です。もちろん、やり方によってはメニューの中心にもなります(注9)。
この5%の塩分で漬ける、ということに慣れると、ヨーロッパ式の本格ピクルスや、ザワークラウトも作れるようになります。
いずれ、ご紹介しますね!
浅漬や、漬け汁(ピックル液)を使うピクルスは「無発酵」のため、摂取できるほどは乳酸菌がいません(実は、乳酸菌自体がそんじょそこらにいますので、絶対にいない、とはいえないのですが…たくさんはいませんw)。
注2
手で野菜を詰める作業があるので、手がすっぽり入る広口瓶が向いています。
注3
実は、最後に物足りなくてキャベツを加えてしまいましたので、できあがりの写真は600g弱の野菜で作ったものになっています。ごめんなさい!
注4
空中に漂っている菌たちの力を借りるので、消毒に神経質になる必要はありません(煮沸消毒までは不要と思います)。手洗いも同様です。ぬか床と同じで、手についている菌が美味しくしてくれるのです。
注5
オーガニックでない場合は、重曹を使うなどして農薬をしっかり取りましょう。
参考>【今すぐやりたい!】重曹で野菜・果物の農薬除去がカンタンに♪
注6
わたしはいつも適当に発酵させていますが、失敗したことはありません。発酵具合の目安になる野菜を材料に加えるなどして、気軽にやってみてください。
注7
最初から冷蔵庫で進めることもできると思いますが、低温発酵になるため、かなり時間はかかります(2週間以上かかるのではないかと思います)。
そのまま忘れてしまった…ということにもなりかねないので、最初の数日は、常温で発酵させるのをおすすめします。
注8
わたしは半年ほど経過したものを食べていますが、それでも問題はありません。
注9
例えば、ごはんにまぜて、まぜ寿司やまぜごはんにしたりなどはいかがでしょう。薬味をたっぷり載せれば、かなり豪華になります。冷たい麺類の薬味にたっぷり使っても美味しそうです。
※2018年5月、使用する瓶の消毒について、補足しました